商品のこと

開発者インタビュー
こだわりと制約が生む「THE シリーズ」制作秘話

KANADEMONO のTHEシリーズ1

日々多くのプロダクトを生み出している KANADEMONO。どんなポイントから商品を開発、設計しているのか、知る機会は案外少ないかもしれません。

今回は、KANADEMONO のシグネチャーアイテムである THE シリーズの設計に多く携わってきた、デザインチーム マネージャー氷室さんにインタビュー。 さまざまな制約の中での設計や仕事への向き合い方、現代の住環境について今思うことを伺いました。




氷室 拓磨(デザインチームマネージャー)

制約があるからこそ光る
極めてシンプルなデザイン

KANADEMONO のTHEシリーズ2
KANADEMONO の THE シリーズ

─── 氷室さんにとって、KANADEMONO の THE シリーズとはどんなプロダクトですか?開発時の苦労などあれば教えてください。

氷室さん(以下敬称略):天板や座面、脚の組み合わせ次第で大きく印象が異なるのが、この THE シリーズです。シンプルで高いカスタマイズ性、1cm 単位のサイズオーダーが可能など、使っていただく方にとってはお部屋にぴったりの理想的な姿が手に入るプロダクトだと思っています。

また、テーブルとシェルフを同じ高さになるよう設計していたり、テーブルとベンチをセットで使えるようにサイズを検討できるなど、シリーズの家具を組み合わせて使うことによって、一体感のある空間になるのも他にはない特徴ですね。

KANADEMONO のTHEシリーズ3


ただ、開発時はいつも、この特徴である“サイズオーダー”や“組み合わせ”に苦しめられます。固定サイズであればどれだけ話が早かったか(苦笑)。

これらの特徴は THE シリーズの根幹となる部分ですが、単に選べればいいよねではなく、選んだ結果、1つの理想的な姿が手に入る形になるように気をつけなければいけません。

手元に届くのは数ある選択肢から選んだ1つの組み合わせなので、その1つの姿としての完成度がおざなりにならないように。そういった意味でシルエットは特に意識しています。

KANADEMONO のTHEシリーズ4


─── 一つでも、組み合わせて使っても、どちらも様になるようにつくっているんですね。プロから見て、ユーザーが家具を購入する際に「ここを楽しんでほしい」といったポイントはありますか?

氷室:みなさん、服を買う時にサイズを合わせるのは普通なのに、意外と家具のサイズはそこまで気にしていないですよね。(そもそも選択肢がないこともありますが)サイズがジャストであることで空間が一気に洗練されていきます。

既製品以上、フルオーダー未満の世界で、新しい家具選びを楽しんでほしいです。色や形状のチョイスで劇的に印象も変わるので、ぜひ、他では買えない組み合わせや我々でも想像していない様なコーディネートにも挑戦していただきたいなと思います。

KANADEMONO のTHEシリーズ5
個人向けはもちろん、法人向けにも人気の高い THE STORAGE SHELF

─── これまで数多くの THE シリーズのプロダクトを世に出してきたと思いますが、最も思い入れのある商品はなんですか?

氷室:色々とありますが、1番思い入れがあるのは、THE STORAGE SHELF です。ぱっと見はとてもシンプルで地味ですが、結構苦労した商品なので。

幅、奥行き2軸のサイズオーダーと短納期が実現できる構造、オーダーサイズが小さくても、大きくても揺れない脚形状を何パターンも検討するなど、わりと無茶な要件を成り立たせたプロダクトなんです。

数あるスタディの中で実現したのが今の形。まさに“THE”といえるような極めてシンプルなこの形状に落ち着きました。

ストレージシェルフを見る

開発者が考える おすすめの組み合わせ

KANADEMONO のTHEシリーズ6

─── 組み合わせの話が出ましたが、私のようにセンスがない人間には結構難しいんです。氷室さんのおすすめの組み合わせや、コーディネートアイテムを教えてください

氷室:KANADEMONO には、THE シリーズの他にもさまざまなインテリアアイテムを用意しています。今回 THE シリーズと素敵なアイテムを組み合わせたコーディネートを3つ提案しますので、参考にしていただけると嬉しいです。


おすすめ1:贅沢なワークスペース

KANADEMONO のTHEシリーズ7

シェルフとデスクをL字に組むと、大きな天面に好きなだけ広げて作業ができる、ちょっと贅沢なワークスペースが作れます。デスクライトが気分を上げてくれそうですね。


おすすめ2:玄関周りを便利に THE BENCH と小物

KANADEMONO のTHEシリーズ8

玄関周りとかにちょこっと置いて、シェーカーボックスに小物を入れると便利ですし、TATAMI NO MOTO が落ち着いた雰囲気ながら、いいアクセントになっています。もちろんリビングに置いても雰囲気が出ると思います。


KANADEMONO のTHEシリーズ9

このコーディネートは、ベンチの座面樹種が選べるからこそ、樹種とボックスの色味の組み合わせに迷うかもしれませんね。スマートフォンでスクショを撮って組み合わせを作ってみると楽しく選べますので、ぜひやってみてください。



おすすめ3:お部屋に上質な空気を漂わせるダイニングセット

KANADEMONO のTHEシリーズ10

こちらは1番スッキリ、シャープ感のある組み合わせで、一気に空間に上質感を与えてくれるコーディネートかと思います。Dark gray カラー天板 × Black 脚もしまっていいですし、Bordeaux カラー天板 × White 脚の組み合わせもいいですよね。落ち着いたマットな仕上がりなら、カラーも取り入れやすいですよ。

“100年後も使われている” を目指すものづくり

KANADEMONO のTHEシリーズ11

─── 氷室さんが仕事をする上で大事にしていることはなんですか?

氷室:知り合いが何も知らずに選んで、自慢げに話してくれたりするのが理想的で、あくまで、友人や知人の手の届く距離にあるものを形にしていきたいと思っています。

日々の暮らしで手に取る“選べるもの”をもっと心地よく、身近な人のQOLをさりげなく高められる存在を作っていきたいです。

KANADEMONO のTHEシリーズ12


家電などテクノロジーのアップデートが著しい製品に比べ、家具は1つのプロダクトとして非常に生存率の高いものと言えます。購入されたもの自体も残り続けますが、優れた製品は図面があれば再現できることも家具を作る上での魅力です。

自分の知らないところで、購入者の孫の代が「誰がどこで買ってきたかは分からないけど使えるから使ってる」みたいなことがありえると思うんですよね。私も、“100年後そのまま使われていてもおかしくない”を目指して取り組んでいます。

過去現在未来の、住環境と家具の関係性

KANADEMONO のTHEシリーズ13

─── 現在の家具を取り巻く問題点と、これから実現すべき住空間はどんなものだと思いますか?

氷室:現代の住環境において供給安定性や耐久性、コストの観点から、内装や家具にプリント系の素材が多く普及しています。扱いやすく量産しやすい一方で、天然素材に比べると質感はどうしても画一的になってしまいます。

視覚や触覚に与える情報量が下がることで、画面の中のデータのような質感の感じられないのっぺりとした空間が出来上がっていると感じることもあります。

“綺麗”にしすぎた結果、すごく肌馴染みが悪く感じてしまったんですね。

KANADEMONO のTHEシリーズ14


そんな思いもあって、今後はより素材そのものの力に頼った、綺麗に整えすぎず、自然の姿を日常に取り入れるための加工にとどめたような家具があっても面白いのかなと思います。

本来、新品も使っていれば傷が増え、染みができ、色味も変化します。そんな当たり前の経年変化が、家具というプロダクトや住空間そのものの前提に改めてあってもいいなと。

そういった意味では、改めて空間に"質感"を取り込みたいですね。

KANADEMONO のTHEシリーズ15


─── デザイナー・設計者として、叶えたい未来の空間や暮らしを教えてください

氷室:上の質問と同じような話になりますが、空間に、より“質感”を取り入れつつ、とはいえ現代に合わせた機能性や将来の可変余地もほしい。贅沢ですが、そう思ってしまいます。なので、「後で手を加えられる素材や構造」などは、設計する上でより大事なポイントになっていくでしょう。

住宅も将来的には空き家が増えていく見込みなので、古いものには手を加えつつ、新しいものを取り入れるといった、「変わりゆくこれから」を見据えた視点は必要になってきます。

画一的ではなく、もっと暮らす家に対してわがままでいい。それらを、新たなテクノロジーである3DプリンターやAIによるサポートなどが後ろから支えているとさらに面白くなると思います。

THEシリーズを見る
よみもの一覧に戻る